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【お題】優しく積もる淡い恋【SS】
今、ちょっとお題をやってみようかと思って、二つまで書いてみたりしてます。
なんか全部オリジナルっぽいです。


お題配布元
○恋したくなるお題 配布
http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/


優しく積もる淡い恋



雪が降る。
そんな日、リアは決まって上機嫌になった。車体修理の父の仕事をいつも以上に張り切って手伝い、定時の六時で引き上げ、すぐさまコートを羽織りペットのベルベッドを連れて家を出た。
町の広場は白雪に染まり、忙しない町の喧騒を日暮れの中で包むように緩和しているようだ。アイスクリーム店や塔から漏れる光が、明暗をよりはっきりと際立てる。
広場に面して、小さな舞台があった。普段は閉じられた幕が、夕刻になると人知れぬ間に開幕する。舞台の後ろには劇場があり、広場からイーストストリートへ入ったすぐに入口がある。リアは一度も入ったことがないためよく知らないが、昼間は広場に面したこじんまりとした小さな舞台でなく、建物の内部の大きな舞台で劇場が演じられているようだった。
お金もなく、昼間に時間のない町人は夕刻広場に寄って、観客席のない舞台の短い演目を、噴水の脇に立ち尽くして観覧する。チケットに払われる入場料も観劇料も必要としない、時折投げられるコインだけが益の小舞台は、劇場側のサービスなのだろう、平日はほとんど毎日、ひっそりと行われていた。
豪雪でなく、しとしとと偲ぶような雪の降る日を、町の人は“スノウ・デイ”と呼ぶ。広場に面したワインレッドの絨毯の敷かれた舞台では、日や週によって演目が変わるけれど、“スノウ・デイ”は決まって同じ役者による同じ演目が行われる。
今日も、少女が一人、透き通るようなシアンのシルクドレスをまとって、淡雪の中ステージに立っていた。
演目は分からない。少女が何を演じているのか、リアにはよくわからなかった。彼女はただ静かに、雪に消え入りそうに柔らかな、しかし広場中に届く響きのある声で歌い続けるだけだった。歌の内容もわからない。分かるのは、詞が、少なくともこの国のものではないだろうということだけだ。
それでもリアは雪の精霊に魅せられたように、“スノウ・デイ”には決まって小舞台を見に広場へ来る。シアン色のドレスを着た、儚げな少女を足しげく見に来ていた。
人形のような緻密な顔立ちに、長い睫毛が影を落とす。金糸のような髪はシアンのドレスに映えて、肩の上までさらりと流れ落ちていた。開かれた唇が柔らかに動き、伴奏のない歌を奏でている。
リアは、ただ一つも見逃さないように息をつめて、瞬きさえ忘れて少女の流れるような動きに見入っていた。
歌が終わる。少女の低頭とともに、まばらに拍手が鳴った。手を鳴らさずに帰る者もいたが、それはそれで最後まで演目を見ていた観客の一つの称賛の表し方だろう。投げ銭をよこす者もいる。リアも拍手をし、幕が閉まる前に頭をあげた彼女に手を振る。こちらに向けて、笑みを浮かべたように見えた。それだけで、胸が高鳴り、冷えた顔が真っ赤に染まるのが分かる。
やがて閉幕し、短い演劇に立ち止まっていた人々も散り散りになった。
白い、ため息を吐く。
手を振ったところで、笑みを返されたと感じたところで、ただの自己満足だ。彼女からしてみれば自分は金も払わない一人の追っかけファンにすぎないのだろう。毎回ベルベッドを曳いてくるのも、一つの印象付けで、他の観客とは違う、一個人としての印象付けをしたいからという浅ましい魂胆からだった。
闇に溶ける幕は彼女とリアの間を阻むように、閉じられたまま硬く動かない。
――帰ろう。
もう一度、白いため息を吐く。
いつも演目が終わると同時に、祭りの後のような寂寥感が胸を埋める。また会えたという喜びよりも、またしばらく会えないというもどかしさのほうが大きい。
ベルベッドの紐を曳いて、踵を返そうと顔を上げると、閉じたはずの幕が揺れて見えた。広場の人気は既に散り、帰路を急ぐ早足だけが通りから通りへ過ぎる。
息を詰める。幕が僅かに開き、先ほどまで歌い続けていた少女の、小さな顔がのぞき見えた。白い手が伸びて、招くように指先を曲げる。
あたりを見回して、一歩踏み出して見ると、少女はこくりと頷いた。そのまま、魔法にかかったかのように少女の側までふらふらと歩を進める。
リアは舞台の前で立ち止まり、少女を見上げた。
「あ、あの、君は」
「いつも、見に来てくれてるよね」
舞台の最後に“観客”に向けて投げて寄こす笑みが、今リアという一個人のために向けられている。その事実に、倒れそうな程のめまいを感じる。口がうまく回らない。
「あ、その、俺は」
しかし、彼女は首を振った。
「これ」
言われて、ようやく彼女が手に何かを握っているのに気付く。それは、雪のように淡く白い花弁の、小さな花だった。それを、リアに向けて差し出した。無言のまま、ずっと差し出したままでいる手から、リアはまるで雪片を受け止めるかのように両手で受け取った。
「もうすぐ、春が来るよ」
そう言った彼女は、どこか寂しそうで、けれどリアには何も返すことができなかった。
視線が絡み、目を伏せる。こんなにも間近でその精緻な顔を見つめ続けたなら、心臓が壊れてしまうんじゃないかと思った。
空に落ちる雪のように、小さく、沈黙に彼女が口を開く。
「いつも見に来てくれてる、お礼」
えっ、と思う間もなく、頬を彼女の唇が掠めていった。我に返り、頬が真っ赤に染まった頃には、彼女は幕の隙間に消え、背を見ることもできなかった。しばらく、黒い幕からはみ出したワインレッドのカーペットを見つめ続けていた。





よかったのかい。
同じ劇場の舞台女優の声を素通りして、ドロップは鏡台の前に腰かける。
打ち明けるんじゃなかったのかい。
彼女の言う言葉は、彼を前にしながら何度も自問していたことそのままだ。
「……いいんだ、ぼくのことは。そうすれば、また来年の冬も会える」
ウィッグをはずすと、その下から同じ色の金の短髪が現れる。ウィッグと同様に金糸のように細く、艶やかな髪だった。
「ドロップ、お前がそれでいいっていうなら、それでかまわないけど」
けれどね。ドロップの肩に手を置いた。鏡を通して、視線を合わせてくる。口紅の塗った唇は、きゅっと端を結んでいた。
「けれどね、時間ってものは、残酷だよ」
もう今年、雪は降らないだろう。今日の雪は、この冬最後のものになるはずだ。次に雪の降るのは、春が来て、夏を迎え、秋を過ごしたまた次の冬になる。
しかし、そのことを言っているのではないのだろうと思う。
こうした服を着て歌い続けることが、年月とともに不可能になっていく、ということ。年月の残酷さは雪が地に落ちるのを止められないように、この身に降り注ぐ。
「それでも、今を壊して、ずっと会えなくなるよりは、いいんだ」
眼をつむる。鏡に映る、自分の顔を見たくなかった。
自分は、彼をだまし続けていく道を選ぶ。観客と、歌う少女と、それだけの関係で構わない。それは、何も知らず自分を追う彼よりも、自身が何よりつらいのだと知っている。
「でも、ぼくは、夢を売るのが仕事だから」
肩に置かれた手が、そっと首に回った。抱きすくめるようにされ、それでもドロップは眼を開かない。
「じゃあ、なぜあなたは泣いてるの」
必死に唇を閉じても、やがて嗚咽がこぼれてくる。静かに泣く彼の頭を、彼女はそっと撫でた。
「……なんで、あんなことしたんだろう。自分がつらくなるだけなのに、なんであんなことしちゃったんだろう」
鏡が見たくない。自分の崩れた顔を見たくはない。自分の感情に直面したら、もう無視できなくなってしまうから。
冬が、終わる。






白い花=スノードロップ。
冬の終わり、春の始まりを告げる花。
ちなみに、ドロップの役者名は本当はアリアでした。書きそびれて、気づいたら主人公が似た名前になっていたので結局書けなかった。
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【2009/08/02 01:36 】 | 未分類 | page top↑
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