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【お題】恋愛感染メール【SS】
お題三つめ。
少し前に書き終わっていたのをちょっとだけ改稿して。


お題配布元
○恋したくなるお題 配布
http://members2.jcom.home.ne.jp/seiku-hinata/

恋愛感染メール



「おっはー」
「おっはー……って今何時だよ。もう夕方だぞ?」
「ははは、昼寝してた」
「……今日中に課題やらなきゃとか、いってなかったっけ」
「うん、そうだけど、まあ、どうにかなるなる」
まだ眠そうに、けれど快活に笑う声が耳朶を打つ。
離れても付き合いの続く友人はいるとよく聞くけれど、僕の場合にも一人、それに該当する人物がいた。
今の通話の相手、英治だ。
去年の暮、英治が他県の高校に引越してしまってからも、僕らは長く友人関係が続いている。実際僕は、彼のことを友達だなんて、初め考えてもいなかった。
そもそも男の友人関係というのは曖昧で、特に僕は特別親しい友人関係というものを築いたことがなかったので、それまで友人と呼べる友人も存在しなかった。孤独というわけでもない、中途半端な立ち位置で、けれどそれでもうまくいっていた。英治との関係もそれまでの周囲のクラスメイトとの関係よりも少し親しいくらいで、休み時間にも、体育の時間にも、やたらと英治が構ってくるなと不思議に思っていた程度だった為に、彼の転校が決まり、お互いの連絡先を交換しようと英治が持ちかけてきて、初めて僕は疑問に思ったのだ。
「どうして」
「え?」
「どうして、そんなに」
構うの? と口にしようとして、自意識過剰な気がして途中で言葉を止める。
「だって、おれたち、友達だろ?」
口をつぐんだ僕に、頬を掻きながら少し照れたように言う彼を見て、ああそうか、と初めて、僕は納得したのだった。
そこで初めて、僕らは友達なのだということに気づいた。
こういう関係が、友達と呼べるものなのだと、僕は初めて気づいた。
人は皆、自分の中で何かが大きく変わる瞬間というものが、人生の中であるという。
価値観の変異とか、人生の岐路とか、そういうもの。徐々に変わることがあっても、きっとそのきっかけとなる、トリガーとなる地点がある。
僕にとって、多分確実なその一つが、このときだったのだろう。
自分にとって、何かが変わった瞬間だった。
友達だと理解したその瞬間に、別れも理解した。
けれど文明の利器とは驚くべきもので、今の時代、電話を使わなくても通話ができるという。i-Cielという無料のサービスを利用して、パソコンに接続できるマイクさえあれば、お互いパソコンをつけてi-Cielにログインしている間なら、いつでも通話をすることができるというのだ。
英治に教えられて初めて知った。特別機械音痴というわけではないが、僕はインターネットに精通しているわけではない。普段特別に使わなかったパソコンを、i-Cielの導入によって頻繁に使うようになった。i-Cielのパソコンへの導入の仕方は、電話をしながら英治に教えてもらった。
初めは普通に電話をかければいいと僕は言ったのだけれど、どうやらi-Cielと普通の電話機の通話とでは、敷居の高さというか、気軽さが違うらしい。なるほど、始めてみると分かったが、通常の携帯電話や据え置き電話機ではここまで頻繁に通話をすることもないだろう。
用もないのに頻繁に電話をかけあう男子なんて、そうそういない。
「そっちは、課題どうなった?」
英治は自分の問題を棚上げにして、問いかけてくる。僕もここ一週間ほど課題にかかりきりで、そう言う話を昨日もしていた。
「そう思うなら、かけてくんなよ」
「ははははは」
笑っているだけで、通話を自重する気がないのは分かっているし、僕も別にそれで構わない、気にしているわけではない。ここ一週間もほぼ毎日英治からの通話がかかってきていた。英治との通話がそれほど支障になっていないから、というのもあるだろう。
「まあ、今まとめ。で、明日提出するつもり」
「ああ、なんだ、もう終わるんじゃん。いやあ、俺は分かってましたよ、ユウ様ならできる、ってね。だからこうして余裕で通話できるんじゃないですあ、はっはっは」
英治は何かを誤魔化すときに笑う癖がある。しかし快活に響く笑いは、決して不愉快ではなかった。ヘッドホンを通して、明朗で心地よい声が響く。
――まったく。
思いながらも、頬が緩んでいる自分がいる。
自分にしてはこれほどに長く関係が続いているのは、こうした英治の気さくさが、好きだからというのがあるのだろう。
「あ、そういえばさ」
「ん、どした?」
「今日大学で、英治みたいな人に話しかけられたんだけど」
「ほほう、それはさぞかしイケメンの」
「うっとうしかった」
「おいおい」
ただ同じ講義をとっていて、他の席が埋まっていたためだろう、ここいいか、といって隣に座ったのがそういう彼だった、というだけの話だ。それだけの関係で、それ以上の関わりもない。初対面も初対面以前に、対面するほどに親しくする気もなかったけれど、講義中に彼はよく話しかけてきたのだ。
外見は似ていなかった。僕の言う似ているというのは、つまり中身、性格の方で、誰とでも気さくに話せるような英治と、その見知らぬ彼の初対面の僕に対する気さくさが、被って見えたのだろう。
「でも、すごいいらっとしたんだけど」
「喧嘩売ってる?」
「そうそう、それで、なんで俺は英治と普通に話せるのかなあと思ったんだけど」
僕は普段は無口だけれど、人と話すとき、頭の中に浮かんだ言葉をそのまま口にする傾向があって、そして、課題をまとめながらだったために頭がそちらに向かいすぎて、良く考えもしなかったのだろう。つい、言ってしまった、それは、失言だったのかもしれないけれど――
「英治だから。英治だから話せるんだなって。英治は俺にとって特別な人なんだな、って思った」
課題に頭が回っていて、しばらく気づかなかった。
そしてようやく気付く、ヘッドホン先の、静寂――沈黙。
通話先の向こうが静かなことに気づいて、そして、そこでようやく、自分は何を言ったのかを思い出した。
――英治は俺にとって特別な人なんだなって……。
赤面、しただろう、僕は。
通話越しでよかったな、と思う程度には。
「あ、ち、ちが、あの、僕がいいたいのは、えっと、あの」
なんで英治が黙ってしまったのか、分からないけれど、僕の発言が元であるのだろうか。声を出していないというよりは、いつも英治の背後に聞こえる車の走行音も聞こえないため、きっとマイク自体を切っているのだろう。もしかしたら誰か家を訪ねたからとか、トイレに立ったからとか、そういう理由なのかもしれないけれど、なぜか僕は無性に慌てていた。
通話に戻ってきてもらおうと必死に弁解しようとする僕の目の前、机の上で、そのとき携帯の着信音が鳴り響いて、メールが届いたことを知らせた。
サブディスプレイに映るのは、『相田 英治』。
今通話をしているのにどうして、なぜメールで、と事態を把握できないまま、携帯を開いた。何か回線に不具合が起きて、通話が途切れてメールで知らせているというわけでもない。
タイトルもないそのメールの本文は、たった一文だけだった。
『ごめん俺、今嬉しすぎて通話に出れない』
――人は皆、自分の中で何かが大きく変わる瞬間というものが、人生の中であるという。
例えば、僕にとってその一度目は英治と友達であると分かったそのときで、それがトリガーだったとしたなら、それが引き起こした二度目の瞬間というのはまさに――今この時なのだろう。
見えなくても、お互いの顔が真っ赤になっているのが分かった。
僕は課題どころではなくなって、無言の通話を、しばらく英治と分かち合っていた。





i-Cielは造語。Skypeやメッセみたいなものです。Skypeは風も普段からお世話になっております。
ネット通話って絶妙な距離感と手軽さを合わせ持っていますよね。
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【2009/12/05 20:40 】 | 未分類 | page top↑
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