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【SS】Who Are You? -04-
どこで切れば(ry

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Who Are You?

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しかし、そんな彼に慣れ切ってしまっている僕は、彼の変態具合よりも話の流れをつかむことに意識がいっているわけで、何が恐怖で恐ろしく怖ろしいのかが理解できなかった為、
「恐怖?」
とオウム返しのように返事をしていた。
「そう、恐怖。目を覚まして、目の前に自分の知らない人ばかりが並んでいたらまず何を感じる? そして自分が誰かも分からない、そんな状態において、まず人が感じるものとは、恐怖に違いないだろう。まず大抵の人は『私は誰?』などと訊ねられる状況ではない。自身という根幹が揺らいで、言葉遊びではないが、自身の存在に自信も持てず、例え皆が腐心しても不審を覚えずにはいられないだろう。目を覚まし、誰も知らない、自分も分からない状況で、次第に浮かんでいく恐怖の表情は――それはきっとたまらないものだと、僕は思うんだがね」
「――変態だな」
今度は、声に出して言ってみた。
「それは、お褒めにお預かり光栄です」
口の減らないみかただった。
「まあ、しかしだね、次第に表情が恐怖に染まっていくのもいいのだが、瞬時に恐怖に染まっていく、そういう瞬間を一番、僕は見てみたいものだね。事故から目覚めた瞬間とは大抵頭がぼおっとしている故に、覚醒していくにつれて不安と恐怖を覚え出すものだろう。先ほど、自分の裸白衣について気づいた瞬間の君ではないし、そんなもの僕が説明してしまえばすぐに解決してしまう、大したものでもなかったわけだが、つまりだね、瞬時に恐怖を覚える瞬間、基盤の揺らぐ瞬間、例えて言うなら初期微動なしで震度八の直下型大地震が起こるような事態、そんな瞬間が訪れないものかと、僕は常に期待を膨らませているわけだがね。そう、そんな瞬間が訪れたとしたら、当人の心の中は正に――戦争だろう。言うなれば戦争の開始を目にすることができるわけだ」
長ったらしいみかたの変態談議に、僕はあえて何も言うまい。口をはさんだところで口達者なみかたに通じるわけでもなし、沈黙を守るのが賢明な判断だろう。
「ふむ、言うなれば、記憶喪失、忘れるということは正にその通り忘れると言うことで、状態で言うならば忘れているということだけれども、それは思い出す可能性を秘めていることを少なからず暗示しているわけだね。それも相対的に見たもので、他者からの観察によって初めて忘れていることが分かるわけだ。本人からしてみれば、忘れているというよりも、それ以前に知らないというところだろう。記憶喪失というよりも、ただの物忘れのように部分的に忘れたものなら忘れたということ自体に気づくこともできるかもしれないが、ごっそりと数年分、もしくはほとんどの記憶を失った場合、元々知らなかったものと知っていたものの忘れたものと、どちらがどちらなのか区別などつかないのではないかな。その場合、なんというのかな、君は忘れている、君はそれを知らない、他者がそう言うことでしか、二つの区別がつかないだろう。他者が断ずることでしか、自己を確認できない、相対的に修復される自己基盤。まあ、それは置いといて、僕が一番恐ろしいと思うものはだね、そんなものではなく――ふむ、知らないことを知らない、これだと思うのだよ。忘れていることを知らない、これも確かに、同属の似たようなものであるかも知れないが、本人にとって幸せなこともあるのさ。例えば、交通事故に遭い目覚めたとき、君はその時体に感じた激痛を覚えていたらいいと、そう思うかい? その痛みを覚え続けていることで、毎晩夢にうなされたりしても、君は耐えられるかい? 例えば筋肉の筋が一つ切れただけでも頭の中で大きな音が響くと言うし、骨が折れたときなどはどんな音が響くのだろうかね。ふふっ、そんな瞬間を見るのもまた堪らないが――忘れているということを知るだけで、思い出してしまうこともあるのだよ。忘れていることを知らないのは、知らないままでも構わない。まあ、つまりだね、知らないことを知らない――これが一番、恐ろしい」
「なんだよその、ソクラテスのような理論は」
そこで僕はようやく、口をはさんだ。心理学をとる者としては、突っ込まざるを得ない。
「ふむ、敢えて言うとするならば、無知の知ならぬ、無知の無知というやつかな」
みかたがむちなどというと、どうしても鞭を連想してしまうわけなのだが、しかし、これは僕の変態度の問題ではなく、みかたの普段の言動の問題であることを弁解しておく。いや、僕が普段みかたとそういうプレイを嗜んでいるとかそういう話では決してなく、断固としてなく、断然と拒否しておきたいところであるが、つまりみかたの普段の発言が変態じみている、とそういうことを言いたいのである。
「むちといえば、君はむちむちした子が好きであったっけね」
無理矢理な連想だった。
「みかたは鞭が好きだったっけ」
「打たれたいのかい?」
「遠慮しておきます」
僕の負けだった。
「ふむ、まあ僕はソクラテスみたいなことを言いたいわけでは決してない。無知の無知が愚かだとか無知の知はどうのとか述べるつもりはない、ただ、知らないことを知らないのは、恐ろしいと、そう言いたいのだよ。言いかえれば、知らないことに気づかない、そういうものかな。例えばだな、ふむ、自分のことを知らないが、そのことを知らない、つまり気づいていない、そのような状態で生きている人のことだよ」
「哲学的だな。自分のことは自分が一番知っている、そう思っているのが恐ろしいと、そう言いたいのか?」
「違うね、そんな抽象的なことを言いたいのではないさ。ふむ、例えが悪かったかな、具体的に言うとだね、自分の出身地を知らないが、それを知らないということを知らない、気づいていない、そういうことさ」
段々と、みかたの言っていることが分かって……くるわけもなく、むしろ分からなくなってきていた。いや、出だしから何を言いたいのかが分からなかったわけだけれども。
「そんな状態あり得るのか? せいぜい、そんな人、子供や赤ん坊くらいなものじゃないか」
「ふむ、まあ、そうだね。赤ん坊が自分はどこで生まれてどこでどうして、こうして生まれたなんてそんなことを考えていたら確かに、気持ちが悪いね。どうやらまた例えが悪かったようだ、言い変えよう。――自分の名前を知らないが、それを知らないということを知らない、これならどうかな?」
まったくもって、みかたの例えは不明瞭だった。一生かかっても僕には理解などできないだろう。
「例え全生活……なんだったか、そんな記憶喪失になって自分が誰かもわからなかったとして、疑問を持たないほうがおかしいじゃないか」
「君は全く頭が悪いね」
「みかたの話が複雑すぎるんだ」
「いいかい、君のその例えでは、知らないことを知らないのではない、忘れたことを知らないのだ。それもそれで構わないかもしれないが、僕が今言っているのはだね、忘れる以前に初めから知らないでいる人のことだよ」
「……でも、そんなこと、あり得ないんじゃ?」
それこそ、人為的に何かを起こさない限り。
「ふむ、確かにそうだね。人為的に何かを起こさない限り、そんなこと起きないだろう」
みかどは人の心を読んでいた。
分かっていたが、侮れないみかただった。
「そう、ならば人為的に起こせばいいだけの話だ」
「人為的に? そんなこと、簡単にはできないんじゃないか?」
「そうだろうね、幾ら発達したところで、現代の科学では無理だろう。まあ、人間相手には、ね」
そこで、含蓄のある笑みを浮かべる。まあ、デフォルトな笑みであるし、含蓄があると僕が感じているだけなのかもしれないし、笑みを浮かべるとき以前に常にみかたは何か含蓄するものがあるようなことを企んでいるのかもしれないが。
「要は、人間により近いものであればいい」
「猿とかか?」
「君は全く馬鹿だな」
「うるさいな」
「馬鹿だな」
「言いすぎだ」
猿よりは馬鹿じゃない。
「猿などにそんなことをしたとして、一体何の得がある?」
「人間にしたとしても誰に得があるんだよ」
「僕にだよ」
そう言い切り、切れ長の碧眼を細める。

Who Are You?-5-
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【2010/08/25 17:15 】 | 未分類 | page top↑
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