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【SS】Who Are You? -05-
大体クライマックス。

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Who Are You?

-05-





仕切りなおすように、みかたは眉間を中指ではじいた。
「少し話を戻そうか、記憶喪失に陥った時、大抵の人は『私は誰?』などと口にできないと言ったが、つまりそれは、周囲の人のことも忘れていて、そんな知らない他者に訊ねることなどできないからだ。けれど、『私は誰?』と訊ねたくて仕方がない、そして実際に訊ねているのだよ――自分の心の中でね。その場合、それは他者に向けた問いではなく、自問ということになるだろう。言いかえれば自問というのは、自分を第三者と自己とに切り分け、第三者として自分に問いかけている、そういう風にもとれる。ならば、別に自分を二つに切り分けずとも、問いの主をゆだねてしまえばいいのではないかな? それこそ、第三者にね。そう、一人称を二人称に変えて、訊ねてもらうだけでいいのさ。――しかしだね、僕が言いたいのは、忘れていることを知っている、そんな記憶喪失の人のことを言っているのではない。知らないことすら知らない、そういう人のことを言っているんだ。自分が誰かも知らない、しかしそれを知らないことすら知らない、そんな人は、果たして自問などというものをするだろうか。いや、逆説的に言うならば、『私は誰?』と自問するような人は、自分が誰かも知らないということを知らない――そんなわけはないのだ。つまりだね、人為的に『私は誰?』という問いが発生しないようにする、そうすれば、自分が誰かも知らないことを知らない、そう言う人ができあがるわけだ。そして、自問が浮かばないなら、他者が問いかければいいのだよ。一人称を二人称に変えて、ね。――そしてこれは余談だが、鏡に向かってその言葉を呟いてみるといい。何度も何度も繰り返すだけで、簡単にノイローゼになれるよ。まあ、この僕は、ノイローゼになどならないけれど」
僕は僕だからね。
みかたの眇めたままの目が、僕を睥睨しているように感じるのは、気のせいだろうか。
「僕は僕以外の何者でもない。君にとってのみかたは、それこそ見方によって変わるだろう。君にとって僕はみかたであるが、しかし君も思っている通り、それは自称に過ぎない。本当の僕の名も正体も、一年そこらじゃ把握しきれやしない。しかし、そもそも本当の僕も何も、本当の僕とは一体何だろうね。自分が把握している僕か、それとも他者からの観察によってできあがるのが本当の僕なのか。三方の見方によってみかたというものは変わるのさ――この場合、三方というのは僕と君と、それ以外の他者ということになるだろうか――いや、そんなことはどうでもいい。つまり、例え僕がなんであろうと、僕は僕に変わりはない。僕は誰だと考えたところで僕は僕以外の何者でもなく僕でしかない。確信しているし、それは事実だ。僕は何度僕は誰かと訊ねたところで、ノイローゼになどならないよ。そう、僕は、ね」
まるで、君はそうではないだろうと言いたげなみかただが、その根拠は一体どこから沸きあがるものなのか。
そもそも誰がやるか、と思いつつ、話の半分も理解できていない上みかどの話が遠回りで長ったらしく結局鏡に向かって何を訊ねていいのかも覚えていなかったので、
「で、人間により近いものって何?」
と、更に話を戻した。
「君、少しは頭を使いたまえよ。僕はね、人間により近いもの、といったが、ほぼ人間と等しい思考感情を持つもの、と言い変えたいね。――君と僕を引き合わせた人は、一体誰だったかな?」
「工学科の、梁山教授」
「彼の研究内容は?」
「えっと、ロボット工学……」
――ロボット?
顔を上げる。やっとわかったのかい、とでも言いたげにみかたは肩をすくめた。
「そう、そもそも僕と君が出会ったのも、僕が梁山教授に実験のパートナーが欲しいと言ったところ、君を紹介してくれたからだ。彼は僕の才能を高く評価してくれていてね、僕が要請を訴えれば、研究材料も用意してくださることだろう」
「でも、みかたが言いたいのは、人間とほとんど変わらないロボットということだろう? そんなもの、現代に存在しないだろう」
「発表されていないだけにすぎないのさ。つまり、そこで君の出番なわけだ。君の専攻は何だったかな」
心理学。
人間の心理を研究する学問。
つまりみかたの話から推測するならば、僕の心理学の知識を、梁山教授から拝借したロボットに人間により近い思考感情を芽生えさせるために活用しろと、そういうことなのだろうか。
色々とおかしい気がする。
「……いや、でも、僕はお世辞にもそんなに成績のいいほうではないし、講義に追いつくのに精いっぱいなくらいで、それを活用しようなんて」
「君が心理学をとっていることが重要なのではないのさ。君が心理学という学科の場にいる――それが重要なんだよ」
説明しようか。君には、どうせ分からないかも知れないが。
聞こえるか聞こえないかの声量で小さくそう付け足してから、みかどはいつも通り語り始める。
「ふむ、そうだ、例えばだね、お前はピンク色が好きだろ、と冗談でも言われ続けた知り合いがいるんだが、実際はピンクなど好きではなくて、情熱的な赤色が好きだった。けれどね、言われ続けた結果、その彼はいつの間にかピンク色を好きになっていたんだよ。一種の洗脳とでもいうべきかな。今のは具体的な例だったが、日常でも起こっていることだろう。むしろ、皆が経験していると言ってもいい。例えば僕らは生まれたときから日本に住んでいるだけで、クリスマスを祝ったら一週間後にはすぐに初詣にいくなんて事実に何の疑問も抱かないでいる。それは小さい頃からそういうものだという中で暮らしてきたからだろう。国民性だから仕方がないし、そもそも誰のせいでもないし、何も悪いことではないのだからそんなこと気にする必要もないのだけどね。つまりは、人など周りの声や環境に流されてしまう――いや、言い方を変えよう、人など所詮周囲の環境に自己を固められてしまう、そういうものなのだよ。漫画や小説でよくあるだろう、主人公が超常現象を実際その身で体験しても、周りに夢だと何度も言われてしまえば本当に夢だと思えてきてしまう、そういうものがね、あれは中々に事実だよ。――そう、僕が言いたいのはだね、君は心理学専攻というその場にいるだけで、既に僕の実験に必要な人間の心理が身についていると、そういうことだよ。人間の心理はこうである、そういう講釈を延々と聞き続けていれば、自然と身に着くというものさ」
「……つまり、成績が不振であろうと、学んだことは全部身についていると、活用できないわけがないと、そういうことか」
やはり、おかしな話だった。
みかたの論理と話術には閉口してしまうほど、言い返せないほどに納得させられてしまいそうになるが、しかし――おかしな話だ。
それだと、大学に限らず小学生から大学生まで全部の学童が講義に出ているだけで期末テストや入試試験に困らないで済むことになる。僕は自慢じゃないが期末試験で胸を張れるほどの点数を取った覚えはない。
それに、例えみかたがそう考えていたところで、成績不振な僕より成績優秀なパートナーのほうが少なからずありがたいはずだった。
「ふむ、やはり……」
辟易した風の僕を眺めながら、何やら考えるように顎に手を当てたと思うと、
「君は馬鹿だな」
みかどは再三に渡って暴言を吐いた。
「あのな……」
「しかし、そんな馬鹿な君が、僕は好きだよ。いや、理想通りといってもいい」
――ん?
これは、どういうことだろう。なぜかいきなりこんなところでみかたの告白を受けている僕だった。
話の脈絡が分からない以上に異常に混乱する展開だった。
みかた風に言うなれば、デレたというやつだろうか。鬼畜期間が大分長かった気がするが、ここにきて、何か心境の変化でもあったのだろうか。それは大変嬉しい変化であるし、できることならばこのままデレ続けて鬼畜部分を封印してもらいたいところである。
などと考えたところで、どうせいつも通り辛辣な返しがあることだろうし、事実その通りに違いないから僕は対した反応も見せずにみかたを不審な目で見つめ身構えるしかなかったのだが、それに関してはみかたはもう既に終わったとでもいうように、ふむ、と一人いつものように頷いた。
「会話にもいい切れがついたところで、さて、そろそろ実験に入るとしようか」
みかたの中では本当に今ので会話が終わったつもりらしい。
茶番劇は終盤に近付いていた。

Who Are You?-6-
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【2010/08/25 17:20 】 | 未分類 | page top↑
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