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ギャラドス【SS】
ギャラドス、それは力を求めた者の行く末。


ギャラドス



「赤いギャラドスは、色違いのポケモンの中でもっとも有名な例である」
テレビでオーキド博士が言っていた。
赤いギャラドスは、いかりのみずうみで発見されたのがニュースになってまたたく間に人々の関心を集めた。何かごたごたしたことがあったらしいけれど、詳しいことは僕には分からない。いかりのみずうみ最寄りの町、チョウジタウンに出向く記者、出向く観光客、周囲で起こる怪事件――とにかくテレビで何度も放映されて、色々なことで騒がれて、赤いギャラドスはとても有名になったのだ。
僕はギャラドスを持っている。当然赤いわけはない。赤いギャラドスと言うのは滅多に生まれるものではなく、現にニュースで騒がれた赤いギャラドスも自然発生したものではないらしい。
僕のギャラドスが赤いわけは、当然ない。
赤色のコイキングから、青色のギャラドスに進化したって、それはほとんどの人がそうであるように、至極当然のことだった。



石を投げると波紋が広がる。跳ねることはない。平らな石など選んでないからだ。
水没音。
音を立てて水しぶきが上がる。
湖の中では、僕のギャラドスが顔と尻尾だけを出して自由に泳ぎ回っている。楽しそうに暴れ回り、何も知らずに水中に潜ったり、水面に顔を出したりしては、大きな音を立ててポケモンたちを驚かせていた。
先日ギャラドスに進化したばかりの彼は、多分、まだ自分が“ギャラドスである”という自覚がないのだろう。
出会いは、この湖だった。初めてのポケモンを捕まえようと僕は森に出向いたけれど、ポッポには砂をかけられ、コラッタにはズボンのお尻をかじられて、何も捕まえられなかった。ヤケになってボロいつりざおを湖に垂らしていると、針にかかったのがコイキングだった。
それが、ぼくの初めてのポケモンだった。
ぱっと見はとてもへなちょこで、正直半分がっかりしたところもあるけれど、それでも嬉しかった。ポッポに砂をかけられ、コラッタにお尻をかじられて落ち込んでいる僕の前に釣りあげられた赤い弱そうなポケモンは、それでも僕にとって輝いて見えたのだ。
モンスターボール一個を投げて、捕まえた。
初めてのポケモンをゲットした。
簡単すぎて、正直呆気なくて、それがこいつの弱さを象徴しているような気もして不安だったけれど、それでも喜ばずにはいられなかった。
クラスの友達は、みんなもうポケモンを持っていた。ポッポもコラッタもオニスズメも持っているやつもいた。クラスの女の子もプリンやピッピを持っていた。ポケモンを持っていないのは、僕だけだったのだ。
ポケモンを釣り上げた。ポケモンをゲットした。これでもうみんなの仲間入りだと僕は思った。
家に帰って父に見せると、コイキングだと名前を教えてくれた。父も母も初めてのポケモンだね、と笑ってくれた。
ギャラドスは、相変わらず無邪気に遊んでいる。上空を飛びまわっているバタフリーの後を追いかけては、逃げられているところだった。思えばこのギャラドスは、出会ったときからこうだった。釣り上げて、捕まえてすぐから僕になつっこかった。コイキングの情けない顔つきから、ギャラドスの邪気満面の顔つきへと変わっても、相変わらず性格は無邪気なのだ。自ら争うこともしなかった。ボールに抗うこともしなかった。クラスの友達とバトルするときも、一切攻撃なんてしようとはしなかった。
コイキングを学校に連れて行った僕は、まず初めに、みんなに笑われることとなった。これでみんなの仲間入りだと思った僕は、そこで笑われてしまったのだ。どうしてみんな笑うのか僕には分からなかった。女の子まで笑っている。いかにも弱そうだけれど、笑うことまでないじゃないか。弱そうに見えても、立派な、ポケモンの一匹だ。
「分からないって顔してるな。じゃあ教えてやるよ。バトルしようぜ」
ポケモンを持ったばかりの僕でも、まったく戦い方を知らないわけではなかった。幾つかの技があるのも知っているし、それを知らなくても、とにかくポケモンに向かって動きを指示すれば、技を出してくれる。そのはずだ。
相手はポッポだった。弱点とか、相性とかは分からない。とにかく、攻撃するしかないと思った。
「コイキング、攻撃だ!」
僕は叫んだ。けれど、コイキングは動く気配がない。何度も叫んだ、けれど、地面にはねるだけで何もしてくれない。
周りのみんなは、くすくすと笑っている。
「なんで攻撃しないかって思ってるだろ。そいつ、はねるしか使えないんだぜ」
相手が言う。
みんなの笑い声が大きくなった。
彼がそう言う通りかどうか、コイキングはただ、地面にはねているだけだった。情けない顔をしたまま、ただ地面にぴちぴちと音をたてるだけだった。
ポッポはひたすらすなかけばかりやって、攻撃をしてくる気配もない。攻撃されることもなく、倒されることもなく。僕はただの、晒しものとなっていた。みんなはただ笑って、僕を見ているだけだった。
その日を境にして、放課後僕は森に出向くことが多くなった。コイキングを連れて、野生のポケモンを相手に、ひたすらバトルをしかけた。バトルのトレーニングだ。森で湖で、いっぱい野生のポケモンを相手にバトルをした。
僕のコイキングが全く使えないわけじゃない。弱いわけじゃない。ただ、バトルをしていないから、経験が足りないだけだ。
何度も何度もバトルをした。攻撃技を覚えていないから勝てるわけないけれど、それでも戦った。いつも無邪気でただ笑ったような顔をしているコイキングは、攻撃できなくても、それでも一生懸命戦ってくれているように見えた。
どうやって戦ったらいいのか、考えて、考えて、そしてコイキングが覚えたのが「たいあたり」だったのだろう。ようやく覚えた攻撃技だった。それでも、野生のポッポを倒すことすら大変だった。これではクラスの子になんて勝てるわけがない。もっと、もっと特訓をしなければいけない。
コイキング、たいあたり。コイキング、たいあたりだ。
傷もいっぱい作った。ポッポにつつかれた傷も、コラッタに噛まれた傷も、地面と擦れてつくった傷もある。それでも頑張ってくれた。何度も戦ってくれた。いつもの笑ったような顔を、真剣な表情に変えて、何度も戦ってくれた。
そしてコイキングは、ついにギャラドスに進化したのだ。



石を投げる。石を選んでいるわけではないので、跳ねはしない。
ギャラドスの飛ばす水しぶきが僕にかかった。
ギャラドスは進化するとともに、それまでの真摯な態度から豹変したように元の無邪気な性格に戻っていた。というよりも、元々無邪気だったのを僕のために頑張ってくれていたというのが正確だろうか。僕が何か落ち込んでいたりしたのが分かっていたのだろうか。
今は何も知らないかのように、ギャラドスはひたすら無邪気だ。
ギャラドスを学校に連れていくと、コイキングを連れて行ったときとは打って変わって、教室は静かだった。それまで馬鹿にしていたやつらも、大人しくなっていた。
コイキングをけなしていたやつらを、今度こそ倒してやろうと思っていたけれど、ギャラドスを見てかかってくるやつはいなかった。逆に恐れているようでもあった。怯える彼らを見て、僕は、彼らを見返してやることに成功したと確信した。
「へっ、ギャラドスなんて、怖くないぜ……」
強がってそう言うやつもいたけれど、視線を向けると目をそらして、すぐさま言葉をとぎらせた。
コイキングがギャラドスに進化するなんて知らなかった人もいるようで、恐る恐る、けれど興味深そうに僕に色々聞いてくる人もいた。そういう僕も、コイキングがギャラドスに進化するなんて知らなかった。
もう、僕のコイキングを、ギャラドスを、けなすやつなんていないだろうと確信していた。それで充分だった。
けれど、その次の日のことだ。
いかりのみずうみで赤いギャラドスが発見された。
テレビのニュースは、そのギャラドスのことで騒然となっていた。その時点で詳細は分かっておらず、現地の人が撮ったらしい一つのビデオテープだけが流れていた。
朝のニュースは、そのままクラスでも話題だった。前日、注目を集めていた僕のギャラドスから、早くも赤いギャラドスへと関心が移っていた。みんなその話をしていた。赤いギャラドスの話をしていた。
しばらくニュースは、赤いギャラドスのことで埋め尽くされていた。テレビ局の人が訪れ、また新たな発見報告のビデオを撮る。
珍しいことだ。何が原因か。自然発生したものなのか。チョウジタウンに漂う不審な空気と関係があるのか。誰かに捕まえられたらしい……。
クラスでも一緒だ。連日新しい情報が出る度に、その話で盛り上がる。
僕は、話に加わらなかった。
誰かが言った。
「青いギャラドスなんて、もう普通だよなー」
明らかに、僕への、当てつけの言葉だった。
何か、何かが切れる音がした、そんな気がする。
それからのことは覚えていない。
どうして我慢できなかったのか、今まで散々けなされて耐えてきたのに、どうしてたったその一言だけで耐えられなかったのか。
気づいたら僕はそいつに殴りかかっていて、僕は殴られていて、誰かに止められて、泣いていて、泣きながら先生に怒られていた。そして帰って、お母さんに家でも怒られた。学校から電話があったと言っていた気がする。殴ったやつは初めにコイキングと戦ったポッポを出してきたやつだった気もするし、先生がどうして殴ったのかと聞いていた気もする。覚えてはいない。そのままふらふらと家を出て、いつもコイキングと一緒に特訓をしていた森の中へと入っていき、コイキングと出会った湖へと辿りついていた。
ギャラドスは何も知らずに遊んでいる。無邪気にトサキントを追い回しているだけだ。
僕は石を投げた。跳ねはしない。
ギャラドスが青くたって赤くたって、僕にはどうでもいい。馬鹿にするやつが許せないのだ。僕のギャラドスは、もう充分に強い。あれだけ特訓した。そうしてギャラドスになったのだ。クラスのやつに負けることなんてないだろう。僕は青くたって構わないのだ。
青くても、構わないのだ。
……けれどなぜ、元々赤いコイキングが、青いギャラドスに変わるのだろうか。進化の過程でなぜ色が変わる必要があるのだろう。赤いものが青く変わり、強くなるというのに、なぜみな今は赤を求めるのだろう。なんとなく、赤いほうが強く見えるかもしれない。なら、色なんて変わらなくていいだろう。僕の赤かったコイキングも、進化してそのまま赤だったとしても、変わらないじゃないか。なぜ青になってしまったのだろう。なぜ青色のギャラドスになってしまったのだろう。なぜ赤色じゃないんだろう。青色に変わる必要などあったのだろうか。それは必要なこと……?
ふと気付くと、ギャラドスは遊びを止めて、僕の顔を正面から心配そうにのぞきこんでいた。
僕のことを、本気で、真摯に心配している。それが分かった。
怖ろしげな顔で眉を下げているのもおかしいもので、僕は思わず、吹き出してしまった。
僕は何を心配しているというのだろう。
笑いとともに、背負っていた何かが軽くなったような、そんな気がする。
僕は青いギャラドスで構わないんじゃないか。僕が構わないなら、それでいい。
ポケモントレーナーってそういうものだろう。
自分が好きなら、他人に言われようとどんなポケモンでも構わないのだ。
石を投げる。石を選んでいないからじゃなく、ちゃんと投げていないから跳ねないのだと気づいた。
石に問題があったのじゃなく、投げる僕に問題があった。ポケモンに問題があったのじゃなく、今持っているポケモンを使う、僕に問題があったのだ。
「……行こうか」
笑みを作って、一言そう声をかけると、ギャラドスは笑い顔を返して、一声をあげた。



目が覚めると、まだ夜だ。何で目が覚めたのか分からないが、何か騒がしかったような気もする。外だろうか。
家の外には小さな池があり、ギャラドスは夜いつもそこで寝ている。番犬代わりにもなって頼れると、母さんは笑って言っていた。
時折ギャラドスのねごとで目が覚めてしまうこともあるし、そう珍しいことでもないのだけれど、今は何やら胸騒ぎがする。目覚める前に、人の声を聞いた気がしたのだ。夢と混合したのかもしれないが、僕は起き上がって、部屋の近くにある裏口から外に出てみた。
暗闇の中でも、光る眼が目印になる。ギャラドスは起きていた。
「どうしたんだい、ギャラドス」
声をかけると、ギャラドスは嬉しそうに声を上げた。普段の無邪気そうなギャラドスそのままで、何も変わりはない。特に異変もなかったのだとホッとして、駆け寄る。
近寄って、思わず僕は足を止めた。
「ギャラドス……?」
緊張に絞りだした声。
青色の鱗は、少しの光を浴びても暗闇に反射して光る。それは闇に光る目と共に目印になったものだけれど、何かがおかしい。いつもと違って、何かが違う。
何か。いや、それは分かっていた。
色。
赤い。
ギャラドスが赤いのだ。
真っ赤に染まっている。
全身が、真っ赤だった。
「どうしたんだ、ギャ」
言葉の途中で、思わず息をのんだ。
ギャラドスだけでない。
辺り一面の赤。
側に転がる塊――人だ。それは、かろうじて人と分かる程度の、遠目にも生死がはっきり分かる程度に形が崩れている、物体。
二つの塊。一つは、ポケモン。
僕は気づいてしまう。
ギャラドスの口元に付いている塊。肉片。食事の時、顔中にポケモンフーズをつけてしまう、そのときのような。
そして、人と同じくかろうじて原形を留めて転がっているのは、鳥の形をしている――ポッポ。ポッポなんていっぱいいるけれど、それでも予感以上の確信がある。隣に転がっているのは、トレーナー、だったもの。
ギャラドスは何も知らなそうに笑っている。
僕の頬に顔を擦り寄せ、血が、べっとりと、ついた。
――ギャラドスはいつも無邪気だっただろうか。何も知らなかっただろうか。何も知らず、ただ呑気に笑っていただけだろうか。いや、いつも分かっていたのだ。僕が特訓するときは真摯に付き合ってくれて、僕が望むことにはすべて付き合ってくれていたのだ。僕が悩んでいたときも、心配そうに眉を下げてくれたのだ。
そして、僕が何に悩んでいるかも知っていたのだ……。
今日この二人が何をしに来たのか……人のような塊の横には、ナイフが転がっている……。
つまり、今この状況でなく……もしも、ギャラドスが抵抗をしなければ、逆に――場を理解するように、断片的な言葉が頭へ浮かぶ。それは正論のように聞こえて、一方自分でも言い訳のように聞こえていた。
二つの転がる塊と、赤く染まった一匹のポケモン。それが事実だ。
ギャラドスは、僕が、誰のせいで悩んでいたのか、そこまで、知っていたのかも、しれない。
ギャラドスは、自分が“ギャラドスである”という自覚が、本当になかっただろうか……? 僕は、そのギャラドスのトレーナーの癖に、その自問に何も答えられない。
自分の力を知らなかっただろうか……? 圧倒的なまでのこの現場を目の当たりにしても、ギャラドスは自分の力を知らなかったと言えるだろうか……?
これは、僕が望んだことだっただろうか……?
今日、我を忘れて人に殴りかかったのは、ギャラドスをけなされて怒ったのではなく、本当は自分が“赤”を求めていて、それを誤魔化そうとしただけなのではないのか……?
僕を悩ませるやつが消え、ギャラドスは真っ赤に染まる。
そしてギャラドスは、終わったあとにはいつも無邪気に笑う。
僕にすり寄り、体中に血を付け、赤いギャラドスが、笑った。







一年くらい前にネタを考えて書いたのですが納得がいかず、今回改めて初めから書き直したものです。
当初は「あれ、ギャラドス、どうして真っ赤に…?」と言ってから自分がナイフを持っているのに気づいた。
とかいう超病んでる話だったんですが、執筆力が足りずこちらの方が書きやすいためにこういう形の内容になりました。
まとめられなくて、いつもよりちょっと長め。もうちょっと長く書いてもよかったかもしれない。
サブタイトルは「赤いギャラドス」「赤い獣」など。

ギャラドス、現在ゲーム本編では使ってませんがソウルシルバー以前ではお世話になりました。強いもんね。

以前書いたフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメの話はサイトにまとめたのでこちらからどうぞ
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【2010/10/19 15:35 】 | ポケモン | page top↑
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