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まーくんと合田さん。
タイトルは適当。
あんまり書かない男女の恋愛ものを書いてみました。





その少女は僕の目の前で笑っていた。それは至極いつもの光景で普段通り何の変哲もないただの日常と言うものだったけれど、だからこそ僕は溜息を吐きながら眼を逸らした。
嘆息。溜息。口から洩れる息、なんて表現をすると官能的に聞こえるけれど、それらは一般に憂鬱な感情を表す時に使われる方法で、その一般的な認識と僕の現状の心情にいささかの差もないことをここに明記する。
僕が溜息を吐いているのは憂鬱だからだ。大事なことなので二回言いました。実際には口にしてないけど。
原因は幾つか思い当たる節があるというか、思い当たる節があり過ぎてつらつらと述べるのは面倒極まりないが、おそらくこの眼の前の少女、もとい幼馴染の合田が目の前でいつものように笑っているのも、その憂鬱の根本たる原因を僕から聞きだそうという魂胆なのだろうから、きっとすぐにでも語ることになるのだろう。
合田はさも自分が聖母だとアピールするかのように、無垢なる包容力を持っているとでも主張したいかのように、一般男子が“ミステリアス”と表現するだけの笑みを湛えていた。僕にとってはただ、不器用な僕の一挙一動を楽しげに見守る嫌味で邪気満面の女にしか見えないが。
その笑みを崩さないまま、彼女が口を開く。
「まーくん」
「まーくんって言うのやめろ」
反射的にいつもの返事を口にするが、それが既に反射になってしまっている日常にほとほと嫌気がさす。
「まーくん最近元気ないんじゃない?」
この女、人の話を聞いていない。
予想通りに想定内の疑問が彼女の口から飛び出してきたものだから、予想が当たってしまったことに対してと、そんな予想を既にしてしまっている自分自身に対して、もう一度溜息を吐くくらいなら許されてもいいんじゃないだろうか。
この合田は全く迷惑もいいところで、運悪く同じクラスになった僕に対して事あるごとに話しかけ、まるで口うるさい母のように構ってくるのだ。おかげでクラスの男子からはからかわれるし全くもっていいことがない。昔から変わらない合田の態度から察せられるだろうが、まーくんという呼び名も昔からのもので、何度止めろと言っても止めた試しがない。それもクラスの冷やかしに一役買っているというわけだ。マイペースも程ほどにしてほしい。
まあ、合田のことなんてどうでもいい。僕が一々事細かに説明する必要性も義務もない。
「……別に、関係ないだろ」
僕は視線を合わせないまま喉元と口だけ動かす。
答えるまでの間と、関係ないなんて曖昧な言い方が、そのまま合田の疑問を肯定しているようなものだった。全くなんて僕は馬鹿なんだろう。彼女を撒くなら徹底して意志を貫くべきだろうし、嘘を吐くなら上手い嘘を吐くべきだ。こんなの初めから、陥落寸前ヒビだらけのベルリンの壁を彼女の前に差し出しているようなものだ。
「関係なくないわ、心配なんだもの。幼馴染でしょ?」
心配結構、幼馴染結構、全て彼女が言いそうなことで予想すら容易なワンパターン返答だ。飽き飽きしてくるね。
僕が話す義理はない。義務も必要性もない。
しかしまあ、なんというか、この時の僕は本当に溜息を何度でも吐きたくなるほど憂鬱で、放課後の教室に、彼女に言われて二人で残ってしまうくらいには疲れていたのだ。まだ夕陽の沈むような時間ではないけれど、この調子でいくとまあ頃合いのいい時間になって、きっとそのうち教室も橙色に染まる。なんてロマンチックなんだ、笑えるだろう?
しかしまあ、なんというか、なんて、さっきもこんな言い訳じみた前置きをしたけれど、しかしまあなんというか、僕は誰かにこの憂鬱の原因たる根本を聞いてもらいたい気分でもあったのだ。それが例え邪気満面の幼馴染合田だとしても、だ。
疲れていたし疲労していたし、このままだと精神まで病んでしまいそうだ。そんな悲劇の主人公を気取りたくなるくらいに、僕は僕の身近で起きた様々を誰かに打ち明け相談したくてたまらなかった。
言い訳が長くなったけれど、だから、そんな状況だったからこそ、僕はぽろりと口にしてしまったのだ。
「心配? 心配だけだったらマリモでも出来るよ」
「マリモは心配できるのかしら?」
「そこを突っ込まないでほしい」
「猿くらいなら出来ると思うけれど」
「そんな提案いらないよ」
やれやれ、面倒な女だ。
「とにかく、心配しただけで、僕の現状がどうにかなるとでも?」
「そんなの聞いてみないと分からないじゃない?」
「それってなんか、後だしじゃんけんみたいじゃないか。僕が不利だよ」
「何の話をしているのよ、まーくん」
「まーくんって止めろ」
合田と話していると疲れるのだ。だからこそ僕は合田と二人きりで会話なんてできるだけ避けたい次第であったし、どうしてこんな誰かに話したいなんて一時の誘惑だけで彼女と二人同じ時を過ごさねばならないのか。全く僕は何かを間違えている気がして仕方がない。
じゃあさ、と僕は首を大げさに竦めてみせた。
「初めは毎日消しゴムを無くしたなんて小さな事から始まり、次には非通知で毎夜僕の携帯に無言電話、覚えのないピザの宅配に続いて、しまいには大切にしていた犬を殺された、なんて、僕がお前に相談して、現状僕の何かが変わるのか?」
案外ちょろい僕だった。話さないつもりの空気を出しながらぽろぽろ零れ落ちている。というか、ほぼすべて語り終えたに等しかった。
別に心配されたくて話しているわけではない。いや、心配されたいという考えがまったくもってないとは言い切れないが、少なくとも合田に憐れみの目で見られることだけはごめんである。よく舌を噛まなかったものだなと自分を褒め称え、一度にまくしたてた後に一つ息を吐いて合田の表情をちらりと伺うと、神妙な、としか例えようのない彼女の表情が見て取れた。顎に手を当てるなんておおげさな態度をして見せる、その態度が気にくわない。
「それ、警察に言った方がいいんじゃない?」
堅実で健全で真っ当でその通り他にはないという答えを提示してくる合田だった。全く彼女らしい。しかしそんなもの、真っ当すぎて予想の範疇内でしかないのだ。
「消しゴムを無くしたなんて警察に相談するのか? 無言電話の相手も分からないのにどうするのさ? ピザを頼んでないのに来るんです、って言うのか?」
「犬を殺されたなら」
「お前なら知ってるだろうけど、うちは犬なんて飼ってないんだよ」
その通り、僕は犬なんて家で飼っていないのだ。ましてや母親は大の犬嫌いで、その血をなぜ引き継がなかったのか、対称的に僕は大の犬好きである。子供のころ何度も犬を飼いたいと言っては母親にジャーマンスープレックスをくらって半死にしかけたほどだ。
「近所の空き地に住んでた野良犬さ。こっそり誰にも言わずに僕一人で可愛がってたんだ。首輪までつけてね、飼い主ごっこを楽しんでた。でも、その名前も正体も知らない誰かさんに殺された」
蛇足だが、僕がその犬を見つけたのは三カ月前のことだった。僕は犬が大好きだけれど別に種類に詳しいわけではない。だから犬の種類なんてよく分からないけれど、多分雑種だろう。小さな子供程あるその体格は、僕が見つけたときには骨が透けるほどに痩せ細っていて、放っておけない優しい僕は、自らの小遣いを叩いて犬に食物を与えたのだ。元々犬好きの僕はその犬にシロという名前を勝手につけて呼び、気付けば毎日通い詰めていて、僕が空き地に近づくと自ら駆け寄ってくる程になついてくれた。念願の犬だ、僕が喜び勇み、飼い主気分に浸るのも仕方のないことだろう。シロとネームの書かれた首輪を買ってつけてやった直後のことだった。
なんてことまで合田に伝える必要はないので割愛するけど。
「ある日僕の家のポストに千切れた首輪が入っててね。見つけた僕は嫌な予感がしてそのまま空き地に駆けこんだんだ。でも、まあ、首輪が入ってる時点で遅かったんだよ。殴り殺されて、死んでいた」
だから、飼っていない犬が殺された件で警察に届け出る気になれないんだ。
僕はただ淡々とその事実だけを告げる。
発見当時、シロに果てしない恨みでもあるかのように、顔が原型をとどめないほどに潰れていた。近くに金属バッドが転がっていた。ところどころへこんでいた。
怒りはふつふつと沸いているけれど、元々合田に対して多少の憤りと遣る瀬無さを感じているせいだろう、今改めて口にしても感情を荒げることはなかった。
その後僕が泣きながら一人でシロのお墓を掘ったことまで彼女に伝える義理はないので、大幅カットでお送りする。
「まーくん」
「なんだよ」
不機嫌な声をいつも通りに僕が発すると、その口元を遮るように僕の顎、というか頬に彼女の白い手が伸びていた。いつの間にか机の上をじっと見つめていた視線を上げると、彼女がいつものように、自分が聖母だとアピールするかのように、無垢なる包容力を持っているとでも主張したいかのように、僕に向かって微笑んでいた。
嘘偽りなく公平に事実を述べるならば、少しだけ、どきっ、とした。僕も健全な男子であるし、というより突然白い手が伸びてきたら驚くし、そう言う意味でも驚いたけれど、忌憚なく赤裸々に語るならば、合田は一般男子から見て可愛いとか綺麗だとか、そういう表現をされる部類に入るのだ。見た目はそんな部類に所属する女が、一心に僕のことを見つめていたら誰だって少しくらい心臓が跳ねてしまうものだ。
気付けば僕の最悪の予想と予感通り、教室には夕陽が射しこんでいて、彼女の顔を半分だけ橙色に染め上げて、長い睫毛とすっとした鼻筋の輪郭を浮き彫りにしている。
その橙に佇む少女の赤い唇が、小さく言葉を紡いだ。
「泣きたいなら泣いてもいいのよ?」
「は? 何の話?」
冗談も大概にしろ。
「だって、今にも泣きそうな顔してるもの」
今にも泣きそうな顔、っていうのは多分今のお前みたいな顔の事を言うんだと教えてやりたいけれど、そこまで教える義理も義務も僕にはなかった。
睫毛をぱちぱちさせるな、夕陽が反射して眩しいだろうが。
「僕はお前のそういう大げさな芝居がかったところが嫌いだ」
「私はまーくんのこと好きよ?」
突然の告白だった。
全ての空間が、時間を止めた。
簡単に言うと、僕の頭が理解と許容を越えて真っ白になったのだ。全く何の脈絡も話しの流れもなく、いや会話の流れ的にはおかしくなかったのかもしれないが、僕の気持ち的にはそういう雰囲気ではなかったしそう言う空気に持っていく魂胆もさらさらなかったし、ただ誰かにぶちまけたいという僅かながらの心の隙を見せた瞬間に、心の隙だけに好きなんて言われるなんて、全くもって僕は考えも予想もしていなかったのだ。
「きゅ、急になにいってんだよ」
かろうじて僕がすぐに返すことが出来た言葉はそれだけだった。顔ごと視線を逸らして教室の隅の方を見ようとするけれど、彼女の手がまだ僕の頬に触れているから視線だけを遠くに投げる。それでもどうしても彼女の顔や輪郭や綺麗な黒髪が視界の端に映って気がそぞろだった。
「だから、私は」
「繰り返して言わんでもいい!」
「だって」
「だってもかもめもない!」
「かもめってどこから出て来たのよ」
ようやく合田の手を振り払って僕が必死に教室の天井の隅をじっと睨んでいると、くすくすと彼女の笑い声が聞こえた。睨むように視線を向けると、彼女は唇に人差し指をあてて笑っている。
「照れちゃって、まーくんは可愛いわね」
「可愛いとか言われても嬉しくないし!?」
僕は気付けば何かと戦っていた。確実に目の前に見えるそのもやもやした何かと戦っている筈なのに、気付けば虚無感やら虚しさばかりを覚えて、そうして一人相撲をしている気分になって遣る瀬無い気持ちが襲いかかって来るのだった。
僕は机に立てた手のひらに顎を埋めて、もう一度ふうと溜息を吐く。勿論視線は横に逸らしたままだ。
憂鬱だ。憂鬱で陰鬱で鬱屈だ。どうしようもない。
「野良犬が放っておけない優しいまーくんが好きよ?」
「うるさい」
「そっけなくしながらなんだかんだで私と話してくれるまーくんが好きよ?」
「まーくんっていうな」
「だから、そんな魅力的なまーくんのことが好きになる人も、勿論私意外にもいると思うの」
「あげてもなんもでねーぞ?」
「男の子は出るって」
「下ネタかよ!」
勢いよく突っ込んでいる僕だった。合田の方を見ると相変わらずいつもみたいににこにこと笑っていて、見なければよかったとまたそっぽを向く。まったく、合田と話していると疲れて仕方がない。だから嫌なんだ。
「そうやってまーくんのことを好きになった子が、もしかしたらまーくんのことが好き過ぎて、我慢できなくて色々しちゃったのかもしれないわね」
「だからって、犬まではないだろ」
「嫉妬の力って本当に怖いわよ、何するか分からないんだもの」
「……そんなに好かれるほど女子と触れ合った覚えがない」
「女子なんていってないけど?」
「ホモネタかよ!」
ダメだ、いかん、完全にからかわれているし完全に合田のペースだ。
だからと言って今この状況で何を口にしようと全て自分の墓穴を掘る事態になりかねないと危険信号が僕の頭の中で告げていて、ただ合田の話すことに相槌やツッコミを入れることしかできなかった。
気付けばどうしようもない閉塞感や責任感を忘れてしまっているのだから、もしかしたらこれも全部合田の考えで計らいなのかもしれないけれどそれにしてもなんだか釈然としない。
でもね、と合田が僕の手を取ったものだから、仕方なしに視線だけ彼女の方へ向けると、相変わらずいつもみたいに笑みを浮かべて、夕陽の中に佇んでいた。
「まーくんには私がいるから、大丈夫よ」
「だから、僕はお前のそういう大げさな芝居がかったところが嫌いだ」
どこぞの舞台女優だ、お前は。
「まーくん」
「なんだよ」
「まーくんって言うな、って言わないのね」
「……ふざけんな」
対抗するように合田の手を握りしめ返したら、何を勘違いしたのか彼女は嬉しそうに顔をほころばせて、更に僕の手を握りしめ返してきた。
「まーくん、シロのことは残念だけど、でも、まーくんが優しくしてくれなかったら、すぐに死んじゃってたかもしれない。だから、少しでもまーくんが幸せな時間を作ってあげられてよかったって、そう考えれば、少しは救われないかな」
視線を合わせる。合田は相変わらず、自分が聖母だとアピールするかのように、無垢なる包容力を持っているとでも主張したいかのように、橙色の夕陽の中で、いつものように僕にミステリアスな笑顔を向けていた。
夕陽は沈みかけて、夜の色を混ぜ始めていた。








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ハッピーエンド。
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【2013/05/30 21:52 】 | 未分類 | page top↑
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